前回の記事『ラムダ式やストリーム API や新しい日時 API だけじゃない! Java8 のタイプ・アノテーションあの手この手』で、Java8 で導入されたタイプ・アノテーションがどういったものか紹介しました。 その記事では同一要素に重複して同じアノテーションを付けられる @Repeatable なども紹介しましたが、タイプ・アノテーションは主に「タイプ(型)が使われているところはどこにでもアノテーションが付けられる」という機能を指しているのだと思います。
で、その機能を紹介したのはいいんですが、実際の使い方には触れていませんでした。 これでは片手落ち感が否めないので、タイプ・アノテーションを使用できるライブラリである Checker Framework というのを見ていきたいと思います(が、次に述べる理由により、ライブラリ自体の使い方はこの記事で扱ってません)。 このライブラリは @NonNull のようなアノテーションを型に付加して null 値代入をコンパイル時にエラーを出すといったように、コンパイル時のエラーチェックを行うものです(@Override アノテーションみたいな感じの使い方)。 Java の公式のチュートリアルでもこのライブラリについて言及されていて、これから標準的に使われるようになるかもしれませ。 ただし、1つの難点は Java7 時代の JavaFX のような設定の面倒さがあるところ*1*2。
ってことで、この記事では Checker Framework の機能ではなく、インストール方法というかコンパイラにチェック機能を追加する設定方法を見ていきます。 Checker Framework の機能自体もそのうち見ていきたいとは思ってるんですが、いつになることやら。 また、これらの設定は通常 IDE でもやらないといけないものですが、ちょっと手が回らないので今回はビルドツールをいくつか扱うだけにします。
この記事で使用する Checker Framework のバージョンは 1.8.1 とします。 Java は 8 です。 試してませんが Java7 でも同じような設定(ただし jdk8.jar の代わりにjdk7.jar が必要)でできるんじゃないかと思います。
参考
- 「The Checker Framework」
- The Checker Framework Manual 「1.3 Installation」
- The Checker Framework Manual 「Chapter 24 Integration with external tools」
- Google コード 「checker-framework」
コマンドラインから使用する
まずは、あまり使わないかと思いますが、コマンドラインから Checker Framework を使う方法を見ていきます(Windows)。 別に設定が難しいわけではないのですが、使用するコンパイラを変えるのが如何に面倒かを味わってもらおうかと(笑) ってのは半分冗談ですが、あとで Gradle についての設定方法を見ていくのですが、Gradle には Checker Framework のプラグインが(現時点で)ないので、ビルドスクリプト (build.gradle) を手書きしてやります。 このときにコンパイラにどのような設定をするかは、コマンドラインから Checker Framework を使用する方法をほとんどそのまま移植してやることでできます。 なので、Gradle 上で Chekcer Framework を使いたい人は、コマンドラインからの使用方法(4つ!紹介しますが、特に4つ目)を理解しておいて下さい。 誰かこれを参考にして作ってくれないかなぁ。コマンドラインから Checker Framework を使う方法は、公式のマニュアルに3つ、別途に通常の javac コマンドにオプションを付けて使用する方法を1つ紹介します。 どれか1つでOK。 最後の方法は公式のドキュメントには載ってないので使用は自己責任で。
- Checker Framework の javac コマンドを javac コマンドとして使う
- Checker Framework の javac コマンドを javacheck コマンドとして使う
- Checker Framework の Jar ファイルを使ってコンパイルする
- 通常の javac コマンドでコンパイルする
最初3つの方法の、Unix 系(というか bash)での設定方法は The Checker Framework Manual 「1.3 Installation」に載ってます。 Windows に関しては The Checker Framework Manual 「24.1 Javac Compiler」にいくつかの方法が載ってます。
コマンドラインから使用する場合は、当然のことながらライブラリが自動ダウンロードされないので、まずは以下の設定をしておいて下さい:
- http://types.cs.washington.edu/checker-framework/current/checker-framework.zip から Zip ファイルをダウンロードして、適当なディレクトリに展開する(例えば "C:\java\")
- 環境変数*3「CHECKERFRAMEWORK」に上記の Zip ファイルを展開したルート・ディレクトリを設定する(上記の例では "C:\java\checker-framework-1.8.1")
また、実際にコンパイル時にアノテーションによるチェックが行われているかを試すための Java ソースコードとして、以下の「GetStarted.java」ファイルを使います( The Checker Framework Manual 「1.3 Installation」から拝借):
// GetStarted.java import org.checkerframework.checker.nullness.qual.*; public class GetStarted{ void sample(){ @NonNull Object ref = new Object(); //@NonNull Object ref = null; } }
コメントアウトしている部分を外すと(代わりにその上の行をコメントアウトする)、コンパイル時にエラーが出ます。 では設定方法を見ていきましょう。
Checker Framework の javac コマンドを javac コマンドとして使う
まずは Checker Framework を展開したときに bin ディレクトリに含まれている javac コマンドを使ってコンパイルする方法(Windows)。set PATH=%CHECKERFRAMEWORK%\checker\bin;%PATH% javac -processor org.checkerframework.checker.nullness.NullnessChecker GetStarted.java
- 1行目は1度だけでOK。 set は BASH の export と同じで環境変数を設定するコマンドですね。 PATH の値をセットする際に、%CHECKERFRAMEWORK%\checker\bin を最初に書いてあるところに注意。 これは Checker Framework の javac コマンドを優先して使うようにするために必要です。
- javac コマンド実行時に -processor オプションによってアノテーション・プロセッサを設定しています。 このアノテーション・プロセッサの設定は他の方法でもどこかで指定する必要があります。 面倒ですが諦めて下さい。 複数のプロセッサを指定する場合はコンマ (,) で区切ります。
この方法では PATH が汚染されるのと、もとの javac コマンドが使えないのが難点。
Checker Framework の javac コマンドを javacheck コマンドとして使う
次の方法は Checker Framework の javac コマンドを javacheck コマンド(別に他の名前でもいいですが)として使う方法:doskey javacheck=%CHECKERFRAMEWORK%\checker\bin\javac $* javacheck -processor org.checkerframework.checker.nullness.NullnessChecker GetStarted.java
- doskey は BASH の alias ですね。 初めて使ったw doskey では引数をパイプ(?)するため、最後に「$*」を付けておかないといけないようです。 alias はいらないらしいそうで。 この doskey コマンドの実行も1度で OK。
- 2行目は1つ目の方法で javac の代わりに javacheck を使ってるだけです。
この方法だと、もともとの javac コマンドはそのまま使うことができます。 まぁ、普通にコマンドラインから使うにはこれで充分です。 次はコマンドラインから使う方法ですが、Java コード中から使うのに応用できる方法。
Checker Framework の Jar ファイルを使ってコンパイルする
この方法は、Checker Framework のアーカイブに含まれている checker.jar を実行可能 Jar ファイルとして実行する方法です:java -jar %CHECKERFRAMEWORK%\checker\dist\checker.jar -processor ^
org.checkerframework.checker.nullness.NullnessChecker GetStarted.java
もしくは
doskey javacheck=java -jar %CHECKERFRAMEWORK%\checker\dist\checker.jar $* javacheck -processor org.checkerframework.checker.nullness.NullnessChecker GetStarted.java
Jar ファイルの実行なので javac コマンドではなく java コマンドを使っていることに注意。 checker.jar に含まれているメインクラスは
です(リンクはソースコード)。 ソースコードは framework サブプロジェクトにあります。 まぁ、ソースコード読もうという人はあんまりいないかもしれませんが、メモのために書いておくと、このクラスは引数をオプションとして解析したり Jar ファイルへのクラスパスを設定したりする処理を行い、実際のコンパイルは com.sun.tools.javac.Main に投げてます。
通常の javac コマンドでコンパイルする
最後は公式のドキュメントには載ってませんが、javac コマンドに(ちょっと長めの)オプションをあれこれ指定して、通常の javac コマンドでコンパイルする方法。javac -cp .;checker.jar;javac.jar ^ -Xbootclasspath/p:jdk8.jar ^ -processor org.checkerframework.checker.nullness.NullNessChecker GetStarted.java
- クラスパスに checker.jar, javac.jar を含めます。 上記のコマンドではカレント・ディレクトリにこれらの Jar ファイルがあるとしてますが、そうでない場合はそれらへの(相対 or 絶対)パスをきちんと書く必要があります。
- 非標準のオプション -Xbootclasspath/p: で jdk8.jar ファイルを指定します。 これもカレント・ディレクトリにない場合はきちんとパスを書く必要があります。 また、Java7 で使いたい場合は jdk7.jar にします(たぶん。 試してないけど)。
まぁ、長々とオプション書いて何が楽しいねんと言われそうですが、ちょっと Gradle で手書きするのに必要なので載せました。
Maven2/3 の設定
次は Maven2/3 で Checker Framework を使う方法。 Maven2/3 に対しては Checker Framework 側でプラグインを作ってくれているので、pom.xml の XML 地獄以外は特に問題なく使えます。 ドキュメントは The Checker Framework Manual 「24.3 Maven plugin」にあります:<?xml version="1.0"?> <project xmlns="http://maven.apache.org/POM/4.0.0" xmlns:xsi="http://www.w3.org/2001/XMLSchema-instance" xsi:schemaLocation="http://maven.apache.org/POM/4.0.0 http://maven.apache.org/maven-v4_0_0.xsd"> <modelVersion>4.0.0</modelVersion> <groupId>my.test</groupId> <artifactId>annotation-test</artifactId> <version>1.0-SNAPSHOT</version> <packaging>jar</packaging> <name>Type annotation Test</name> <properties> <project.build.sourceEncoding>UTF-8</project.build.sourceEncoding> </properties> <dependencies> <dependency> <groupId>org.checkerframework</groupId> <artifactId>checker-qual</artifactId> <version>1.8.1</version> </dependency> </dependencies> <build> <plugins> <plugin> <groupId>org.checkerframework</groupId> <artifactId>checkerframework-maven-plugin</artifactId> <version>1.8.1</version> <executions> <execution> <phase>process-classes</phase> <goals> <goal>check</goal> </goals> </execution> </executions> <configuration> <processors> <processor>org.checkerframework.checker.nullness.NullnessChecker</processor> </processors> </configuration> </plugin> </plugins> </build> </project>
- マニュアルにあるリポジトリの設定は必要ありません(バージョン 1.8.0 以降)。
- 複数のアノテーション・プロセッサが必要な場合、<checkerframework-maven-plugin> 要素下にある <processors> 要素に <processor> 要素を付け加えていけばいいんでしょう。
- 結構あれこれとプラグインに設定ができるそうです。 詳しくはマニュアル参照。
ちょっと疑問なのが、process-classes フェーズに check ゴールを付加してるところ。 コンパイル2回してたりしない? まさかね。 もともとのコンパイルはスキップしたりしてるのかな?
Gradle の設定
最後は Gradle。 Gradle に関してもマニュアルに設定方法が書いてるのですが、その方法だと、「コマンドラインから使用する」の箇所で書いたようなアーカイブのダウンロード & 展開と環境変数の設定が必要になります。 うーむ、Maven2/3 では pom.xml を書く以外は全自動だったのに、Gradle では手動のインストールが必要みたいに扱われてるのは Gradle にとって不当な扱いだ! ってことで、それらのインストールがいらない build.gradle を書いてみました。 手書きなのでちょっと汚いです。 誰か Gradle プラグイン作って。apply plugin : 'java' group = "my.test" version = "1.0-SNAPSHOT" sourceCompatibility = 1.8 targetCompatibility = 1.8 project.ext{ enc = 'UTF-8' checkerVersion = '1.8.1' processors = [ 'nullness.NullnessChecker', 'interning.InterningChecker' ].collect{ 'org.checkerframework.checker.'+it } } repositories.mavenCentral() dependencies{ ['checker', 'checker-qual', 'compiler', 'jdk8'].each{ compile "org.checkerframework:$it:$checkerVersion" } } tasks.withType(Compile){ options.encoding = enc if(it in JavaCompile){ options.with{ fork = true def jdk8JarPath = configurations.compile.files.find{ it.name == "jdk8-${checkerVersion}.jar" }.absolutePath compilerArgs = [ "-Xbootclasspath/p:$jdk8JarPath", '-processor', processors.join(',') ] } } } task wrapper(type: Wrapper) { gradleVersion = "1.12" }
- 基本的には、「コマンドラインから使用する」の箇所に書いた4つ目の方法を Groovy & Gradle 風に書き直しただけです。 JavaCompiler タスクに最低限のオプションだけを設定しています。
- このままだとテストコードについてもチェックが行われるので(別にいいんですけど)、テストコードのコンパイルではチェックを行わないような設定もしたいところ。
- アノテーション・プロセッサを追加したい場合は
getAnnotationProcessors() メソッドの適当な箇所project.ext ノード下の processors プロパティの要素に追加して下さい。 - checker-qual への依存関係はなくても Gredle でビルドする分にはいりませんが、IDE とか使う場合はいるんじゃないかと。
- マルチ・プロジェクト(サブプロジェクトがあるプロジェクト)では、マニュアルにあるように allprojects{ ... } の ... の部分にコンパイラ等のスクリプトを書けば OK。
- 【追記】Gradle のバージョンによってはこの build.gradle ではエンコーディングの設定がうまくいきません。 「tasks.withType(AbstractCompile){ ... }」とすると大丈夫かと。
以上、コマンドラインからの実行、Maven, Gradle の設定方法を見てきました。 マニュアルには Apache Ant についての設定も書いてあります。 必要な方はそちらをどうぞ。
Checker Framework を実際の開発に使うには、さらに IDE の方で
- Java8 タイプ・アノテーションに対するサポートの設定
- Checker Framework によるコンパイルの設定
を行う必要があるので、今回の記事の設定だけでは Checker Framework を導入するには不十分ですが、この記事はとりあえずこのへんで。 @Override アノテーションも今や使っている人の方が多いんじゃないかと思うので、Checker Framework も使われ出したら広まるの速いんじゃないかなぁ。 Lombok のような別ライブラリもあるけど。 なんにしろまず使ってみないことには話が始まらないね。
修正
- 前半の日本語が変だったところをいくつか修正しました。
- 「Gradle の設定」の build.gradle をちょっとリファクタリングしました(修正前と動作は同じだと思います)。
修正2
Gradle の箇所に【追記】しました。JUnit実践入門 ~体系的に学ぶユニットテストの技法 (WEB+DB PRESS plus)
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